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東京地方裁判所 平成8年(特わ)2480号 判決 1996年12月02日

本店所在地

東京都台東区東上野三丁目三〇番一号

株式会社

アルマーニ

(右代表者代表取締役 羽佐田進)

本籍

埼玉県浦和市大字大間木一五四五番地

住居

同市大字大間木一五四五番地八棟一〇四号

会社役員

羽佐田進

昭和二六年三月二〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官石垣陽介及び弁護人武田喜治各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社アルマーニを罰金二〇〇〇万円に、被告人羽佐田進を懲役八月に処する。

被告人羽佐田進に対し、この裁判が確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社アルマーニ(以下「被告会社」という。)は、東京都台東区東上野三丁目三〇番一号(平成五年七月八日以前は同区浅草橋一丁目一番八号)に本店を置き、衣料品の製造及び販売等を目的とする資本金一億七八〇〇万円(平成六年九月一日以前は九八〇〇万円)の株式会社であり、被告人羽佐田進(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成三年九月一日から平成四年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億六九八九万一五九〇円(別紙1修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年一一月二日、東京都台東区蔵前二丁目八番一二号所在の所轄浅草税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九六三六万三八〇八円で、これに対する法人税額が三五九八万七七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成八年押第一六二四号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額六三〇三万一五〇〇円と右申告税額との差額二七〇四万三八〇〇円(別紙3ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成四年九月一日から平成五年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億五二一四万九一四九円(別紙2修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成五年一一月一日、東京都台東区東上野五丁目五番一五号所在の所轄東京上野税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二四二四万一〇八四円で、これに対する法人税額が七四〇万九七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額五六二三万六三〇〇円と右申告税額との差額四八八二万六六〇〇円(別紙3ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(注)以下の甲、乙に続く数字は、当該証拠の証拠等関係カード(検察官請求分)甲、乙での番号を漢数字で表記したものである。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(二通。乙一、二)

一  江口徳和(甲二九)及び船尾康浩(甲三〇)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の期首たな卸高調査書(甲二)、商品仕入高調査書(甲三)、期末たな卸高調査書(甲五)、販売員旅費調査書(甲六)、発送配達費調査書(甲七)、上海事務所給料・賃金調査書(甲八)、地代家賃調査書(甲九)、修繕費調査書(甲一〇)、通信交通費調査書(甲一一)、租税公課調査書(甲一二)、接待交際費調査書(甲一三)、備品・消耗品費調査書(甲一五)、厚生費調査書(甲一六)、図書研究費調査書(甲一七)、雑費調査書(甲一八)、受取利息割引料調査書(甲一九)、雑収入調査書(甲二〇)、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書(甲二一)、輸入製品国内市場開拓準備金調査書(甲二二)、交際費等の損金不算入額調査書(甲二三)、事業税認定損調査書(甲二四)及び電子機器利用設備を取得した場合等の法人税額の控除調査書(甲二七)

一  検察事務官作成の捜査報告書(事業税認定損計算書)(甲二五)

一  大蔵事務官作成の領置てん末書(甲三六)

一  東京上野税務署長作成の証明書(甲二八)

一  東京法務局台東出張所登記官作成の履歴事項全部証明書(乙三)、閉鎖登記簿謄本(乙四)及び閉鎖登記簿役員欄用紙謄本(乙五)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の課税留保税額調査書(甲二六)

一  検察事務官作成の捜査報告書(浅草税務署の所在地)(甲三三)

一  押収してある法人税の確定申告書((株)アルマーニ4/8期)一袋(平成八年押第一六二四号の1。甲三七)

判示第二の事実について

一  中村芳美の検察官に対する供述調書(甲三一)

一  伊藤和雄の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲三二)

一  大蔵事務官作成の売上高調査書(甲一)、付属品仕入高調査書(甲四)及び保険料調査書(甲一四)

一  検察事務官作成の捜査報告書(東京上野税務署の所在地)(甲三四)

一  押収してある法人税の確定申告書((株)アルマーニ5/8期)一袋(平成八年押第一六二四号の2。甲三八)

(確定裁判)

被告人は、平成六年一〇月二四日東京地方裁判所で大麻取締法違反の罪により懲役一年(四年間刑の執行猶予)に処せられ、右裁判は同年一一月八日確定したものであって、この事実は検察事務官作成の前科調書及び右裁判の判決書謄本によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上の各罪と前記確定裁判のあった罪とは平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条後段により併合罪の関係にあるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ていない判示各罪について更に処断することとし、なお、右各罪も同法四五条前段により併合罪の関係にあるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役八月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予し、さらに、被告人の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は前記刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で罰金二〇〇〇万円に処すこととする。

(量刑の理由)

本件は、判示のとおり衣料品の製造及び販売等を営む被告会社の代表取締役であった被告人が、架空仕入を計上するなどの方法により、所得を隠匿し、二事業年度にわたって合計約七八〇〇万円の法人税をほ脱した事案であるが、ほ脱額も右のとおり少なくなく、ほ脱率は通算で約六三・六パーセントに、単年度でみても二年度目において八六・八パーセントに達している。そして、所得秘匿の態様も、商品及び付属品を架空法人から直接あるいは商社を介して仕入れたかのように仮装して架空仕入を計上するというものであって、計画的であり、巧妙な面もある。また、被告人は、本件犯行に及んだ動機について、被告会社の業績悪化に備えての事業資金や、中国の被告会社との合併企業の関係者に対するリベート資金、さらには自己の遊興費用を捻出しようと考えたなどと供述しているが、国の財政が国民の公平な税負担の上に成り立っていることを考えれば、いかなる理由にせよ不正な行為で納税義務を免れ蓄財を図ることなど到底許されるところでなく、酌量に値しない動機である。以上の諸点からすれば、被告人及び被告会社の刑事責任には重いものがある。

しかしながら、被告人は、本件発覚後は捜査等に協力し、反省の情を示しており、また、本件各犯行以前には業務上過失傷害による罰金前科が二犯を有するのみであり、本件の余罪について前記のとおり既に確定判決を経ていること、被告会社は、その後本件に関する分を含めて修正申告して、本税、延滞税等を完納していることなど被告人及び被告会社のために斟酌すべき事情も認められる。

そこで、これら本件の審理に現われた一切の事情を併せ考えた上、被告会社及び被告人を主文の刑に処し、被告人についてはその刑の執行を猶予するのを相当と判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社につき罰金二五〇〇万円 被告人につき懲役一〇月)

(裁判官 阿部浩巳)

別紙1

修正損益計算書

<省略>

別紙2

修正損益計算書

<省略>

別紙3

税額計算書

株式会社アルマーニ

<省略>

株式会社アルマーニ

<省略>

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